「跡部、俺達、別れようか?」

唐突な英二の発言に戸惑う跡部。だが、菊丸はいたって冷静。つまりは本気と云う事である。

「お前突然何言ってんだよ?」
「俺、本気だよ?だって…別れた方がいいよ。だから、バイバイ。」



「おまえだけでいい」



英二と跡部が別れて何週間が経っただろう?
英二のコンディションは至って以前と変わった様子などはない。
唯、以前まで持ち合わせていた、持ち前の明るさがないのだ。
確かに、元気であり、明るく振舞ってはいるが、以前とは違う、違和感を感じるのだ。

そして跡部もあまり以前とは変わらない。
唯…女遊びが過ぎると言った感じになった事は間違いない。
しかし、それは、何故か募るストレスの発散法でしかないのに、帰ってきた後は又、ストレスが募っている。
以前、英二と付き合っている頃はストレスは確かに溜まった。
自分とは根本的に性格や思考が違うので、意見の食い違いが多々あったからだ。
それでも、その溜まったストレスは英二と居るだけで自然と消滅した。

――菊丸は…どうだったのだろう?

そう、確かに自分はの話である。
英二だって跡部と同じくストレスは溜まったであろう。
特に、意見の食い違いには溜まったに違いない。
末っ子である英二は、どちらかといえば自分の言った事は通してもらっている。
つまり、家内でも食い違いは少ない筈。
跡部との意見の食い違いは両者ストレスとなっていたのだ。
しかし、それは跡部の推測でしかないが。



「さっ、今日もはりきって部活に行こッ♪」
「…英二…今日は先生の都合で部活は無しだって昨日言ってたじゃない。」
「ぅあ‥そうだった…」

ガックシと肩を落とす。
英二にとって今テニスをする事は唯一この前別れた相手を忘れる事が出来る時間(とき)なのに。

「ねぇ、英二…近頃跡部と何かあったの?」
「ッ…なっ…何もないよ?」

いきなりの質問は図星であり、又それが唐突であったので吃る。

「そう?ならいいけど。」

不二にだってその「何もないよ」が嘘である事はわかる。
が、今問い質した所で英二が白状するとも思えない。

「でも、英二?何があるのかはわからないけど、勘違いって事だってあるんだよ?」
「ぅ、ん。」

既に英二は先程の言葉が嘘と言っているような反応を返す。
不二の言った言葉に「うん」と返したのだから。
何でもないのならばもっと他の言葉を返しているだろう。



近頃、毎晩思う事がある。会いたい、そして

――跡部、…俺辛いよ…。

自分から別れようと言った事は紛れも無い真実だが、ちゃんと理由があっての行動なのだ。
英二だって別れたら辛い事くらい百も承知だったのだ。
しかし、付き合っていても辛いのは変わらないのは確かだったのだ。
そして今晩は、その想いと、不二の言った「勘違いって事だってあるんだよ」の言葉が頭の中を交錯する。
今英二が溜め込んでいる辛いと云う想いの元凶を跡部には打ち明けていないから。



それから数日過ぎたある日―

部活が終わり、校門を出ようとした英二は動きを止める。

「よぅ、菊丸」

今、一番会いたくもあり、一番会いたくも無い相手が目の前に居るから。

「ぅぁ‥ぇ…」
「ちょっと、今日付き合えよ。」

一番苦手な跡部の真っ直ぐな眼差し。

「英二、行っておいで、ね?」

一緒に帰ろうとしていた不二は英二の後押しをする。英二に小さく囁くと英二は一度不二の顔を見てから再び跡部に視線を戻す。

「不二、菊丸借りるぜ。」
「クス…跡部君、英二を泣かせたら承知しないからね?」
「あぁ、わかってる。」

と云う会話が交わされるが今の地点で泣きそうな英二。



「…何なの跡部?もう別れたんだから会いに来ないでよ。」

人通りの少ない川原まで来ると英二が口を開いた。
そんな事は微塵も思ってないのに、口を開けばそんな憎まれ口しか叩けない。

「あぁ、そうだな。でも、理不尽じゃねぇのか?アーン?お前が勝手に別れようって言って俺の前から姿を消したんだろ?俺は同意した覚えはねぇ。」

確かに、跡部が何か言う前に「バイバイ」と言って走り去って行った。
理不尽極まりない行動なのだ。

「それで、菊丸…何であんな事をいきなり言って来たんだ?」

英二は真っ直ぐの眼差しから目を逸らし答えを曖昧にする。

「……別れたかったからに決まってるじゃん…」
「それじゃぁ答えになってねぇよ…。ちゃんと俺の目ぇ見て答えろよ」

中々目を向けようとしなかった跡部の目にやっとの事で目を向ける。

「………跡部、俺の事なんて構ってないで早く跡部の事待ってる女の子の所行けば?」

睨んで言い放つ英二の言葉に跡部は言葉を失う。
何故、菊丸はそんな事を言うのか、と。

「俺見たんだよ?別れる前、跡部が女の子と一緒に食事してる所。」

跡部は身に覚えが無い事を言われて思考が追いつかない。

「待て…菊丸…。俺様は、女と食事した覚えはねぇぞ?」
「嘘吐かないでよ!俺ちゃぁんと見たんだよ?綺麗な人と食事してるのを」

綺麗な人と言われてもわからない。
身に覚えが無いのに思い出せと言われても無理があるのだが。
しかし、一つ思い出された事があった。

「菊丸、それは多分…俺の母親だ。」

この言葉に英二は言葉を失う。

「多分お前が俺様を見たその日は丁度多忙な母親が帰ってきてな。食事に行ったんだよ。」
「う?ぇっ…」

混乱する英二。
それもそうであろう。突然「それは母親だ」なんて言われて混乱するなと言う方が無理なのだ。
特に今の英二には無理であろう。
しかし、暫し混乱して落ち着いてくると次は拍子抜けと言う状態になった。

「にゃぁ…跡部ぇ…それって本当??跡部のお母さんなの??」
「あぁ、嘘吐いて如何する。それに…」

ギュッと英二を抱締めた跡部。
あまりに突然の行動で思わず動揺する。

「ぁ、跡部ぇ?」
「それに、俺にはお前しかいねぇんだよ…。他の誰でもなく…お前じゃなきゃダメだんだよ。」

跡部にいては弱気な発言に英二は驚きつつも抱締めてくる跡部を抱き返す。

「お前だけ、俺様にはお前だけ居ればいい。お前を(なく)してわかったんだ。」
「跡部ぇ……ゴメンね。俺、ちゃんと跡部に言えばよかったね。辛い思いさせてゴメン…」

自分が一番辛かったはずなのに人の事を気遣っている英二に跡部は以前以上の愛しさを覚えた。本当は脆いのに強がって、自分で悩み溜め込んで、それを誰に打ち明ける事もせず一人で悩んで…



「なぁ、菊丸…」
「何?跡部、改まっちゃって」
「今度の日曜日に親にお前を紹介するからその日は空けておけよ。」
「にゃんだそんな事ー………ぇえええ!?!ぁっ…跡部ぇ!?」

やっとの事で二人は仲直りした。それまではいいであろう。
突然の跡部の言葉には動揺を隠せない。

「何だ?文句あんのか?アーン?当たり前の話だろ。」
「ぃや・・・ってか突然過ぎない?」
「お前が別れようって言ったからずっと言えなかっただけだろ・・・。」

そう、英二が別れようと言った日に言う筈だった内容なのだ。
つまり、言うに言えない状況だったのだ。

「わかったか?」
「…ぅん。つーか緊張するんだけど・・・俺。」
「ッハ、んなもん俺様が着いてるんだから大丈夫だ。それに、お前の事、気に入ると思うぜ?」



++++FIN++++



〜後書き〜

何を書いてるんだ自分…
此処まで話を発展させてしまった自分に完敗vv(←乾杯
自分も此処まで話が発展するなんて思っても居なかったので驚きデス
最初の方だけはサラサラーと下書きをしていたのですが、此処までの発展は予想外だったんですね。
しかも何故英二が「別れよう」って言ったかの内容を全然考えていなかったんです。
でも気が付けば、其処のシーンは既に書き終わっていたという何とも驚きな話デス
しかし、英二君を沢山悩ませてみましたvv(爆死


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